9話 ようやくさちこの良さに気づいた男

「入口どっち?」 

「えーどっちだったっけ? 

あれがチケット売り場で、、、 

入口はあっちじゃない?」 

「そっか。」 

彼はさちこの手を引いてチケット売り場とは逆方向の 

入口の方へ歩き出そうとした。 

「チケット売り場あっちだよ。」 

「チケットは買ってあるから。」 

「あ、そうなんだ。さすが。ありがとう。」 

今日の彼は頼もしかった。 

当たり前のように手を繋ぎ歩く二人の姿は 

どこからどう見ても恋人同士の風格だった。 

ゲートで彼が二人分のQRコードを見せて入場した。 

「まず地図をみよう。」 

「うん。」 

入口付近にある全体地図の看板の前に立ち止まった。 

「時間的に一周できるかな?広いかな?」 

「できるんじゃない?」 

「観覧車乗る?」 

「うん乗りたい。」 

「じゃあこっちから行こう。」 

「うん。」 

去年元彼と来た遊園地。 

感動したイルミネーションは今年は更に 

バージョンアップして派手に見えた。 

「なんか去年よりゴージャスになってる気がする。」 

「ほんと?」 

「うん将生と来れて良かった。」 

さちこは去年ここに来たことを知ってしまっている彼に 

誰と来たかなどこれ以上は突っ込まれないよう、 

抱くやもしれない嫉妬心を煽らないよう、 

だが一切そのことに触れず 

目の前のイルミネーションの感動を口にしても 

白々しく聞こえてしまうのではないかと 

細心の注意を払いながら 

彼と今ここに来れて幸せだということを 

さりげなく織り交ぜながら会話していた。 

観覧車のチケット売り場に着いた。 

乗り場の行列が目に入った。 

「ねえ、チケット買う前に待ち時間見た方が 

よくない?」 

観覧車の乗り場に近づくと 

待ち時間が45分と書いてあった。 

「えー45分!」 

「無理。」 

「そだね。じゃあ諦めよう。」 

閉園まであと1時間半もないのに 

この寒空の下、45分も列に並んで時間を使うのは 

割に合わないと判断した。 

「じゃあこっちからぐるっと歩こうか。」 

「うん。」 

観覧車に乗らなくても辺り一面色とりどりの電飾が 

夢の世界にいるように錯覚させてくれた。 

「こういうデートいいよね。」 

「うん。好き?」 

「うん。こういうデート久々。 

もう何年もしてないから嬉しい。」 

「そだね。 

いつもはBプランばっかりしてるんでしょ?笑」 

「うん。笑」 

「だよね。笑  

こういうデートとAプランのエッチなデートと 

どっちが好きなの?」 

「そりゃエッチな方が好きだけど。笑 

こいうのも好き。楽しい。」 

「そっか。そりゃそうだよね。笑」 

「俺さ、とうとうtinderやめたの。」 

「へえ。なんで?」 

「なんかもう一周していいかなって思って。」 

「ふーん。」 

「だからさ、

他のアプリでいいの知ってたら教えて。笑」 

「は?なんで私に聞くの?笑」 

(知ってても教えるかよ。) 

「将生はどういう人探してるの?」 

「どういう人って、、、うーんわかんない。」 

「どういう出会いを求めてるの?」 

「うーん、わかんない。」 

「じゃあ探しようないじゃん。 

まあさ、とりあえず他に見つかったら教えてね。笑」 

「なんで?」 

「なんでって嫌じゃん。知らないでいるの。」 

「そっか。そだね。わかった。 

でもさっちゃんみたいな人なかなかいないんだよ。」 

「そうでしょ?!笑」 

「うん。」 

「さっちゃんだけだよ。 

こんなに長く会ったりしてるの。」 

「そうなの?」 

「うん。だいたい1回か2回会って終わり。」 

「なんで?身体の相性が合わなかったからってこと?」 

「違う。やらずに。会って違うなって。」 

「へえ。今年は何人釣れたの?」 

「そんな何人もいないよ。」 

「30人くらい?」 

「そんないないよ。会っても変な人多いし、 

そんなうまくいかない。」 

「変な人って?」」 

「1回会って違うなって思って会わない人多いし。」 

「何が違うと思ったの?」 

「顔とか年齢とか。写真と全然違う。」 

「そっか。まあ確かに写真と違う人多いかもね。」 

「だからさっちゃんは逸材だよ。」 

「でしょ?!写真通りだったでしょ?笑」

「うん、写真通りだった。」

「私、逸材だよ。笑」

「うん、知ってる。逸材。」 

「こういうデートもできて、エロいことも好きだし、 

将生の好きな年上で落ち着いてるけど、若く見えるし、 

ラインもそんな送らなくて重くないし。笑」 

「うん、そうそう。なかなかいない。」 

「でしょ?!このご縁は大事にしたほうがいいよ。笑」 

「うん、大事にする。」 

「とはいえ、まだ他に探そうとしてるんでしょ?笑

まあ他にできたら教えてね。」 

「できないよ。」 

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