7話 天から二物以上を与えられた男、再び
デートの当日、さちこは前日の忘年会でまずい酒が
残っていて、なかなか起きれずにいた。
ようやくだるい体を奮い起こして
いつもやっている筋トレやヨガなど
一通りのルーティンをこなした。
その後は風呂にゆっくり浸かり、
何があってもいいように
陰毛の処理諸々はきちんとしておいた。
おかげで風呂から出ると待ち合わせ時刻が迫っていた。
スマホに彼からラインがきていないかチェックした。
彼は仕事が早く終わると
待ち合わせ時刻を30分ほど繰り上げて
連絡してくることが今までに何度かあったからである。
とりあえず着信はなかったので
安堵して急いで身支度を整えた。
前日に買ったマニキュアを塗る暇もなかった。

一通り身支度を整えて再びスマホを見ると
彼からずいぶん前に
メッセージがきていることに気づいた。
「今向かってて順調に行けば
18:15に着く予定だよ。」
もうその18:15になっていた。
「ごめん。今から家出る。
この前のファミレスの前だよね?
コンビニじゃないよね?」
「コンビニでもいいよ。コンビニで待ってて。」
ファミレスはいつも彼が迎えに来てくれるところで
コンビニは前回帰りに送ってもらったところであった。
他の女達ともデートしてそうな彼が、
前回送ってくれた場所を覚えている風な回答で
さちこは何気に嬉しかった。
そんなに寒くなさそうだったので
タイツを2枚重ね履きしてブーツにカイロを入れた。
腰に貼るタイプのカイロを探したが見当たらず
さらに家を出るのに時間をロスした。
とりあえず貼らないタイプのカイロを
ポケットに突っ込んで、家を出て全速力で走った。
コンビニの少し手前から息を整えるために歩いた。
コンビニの駐車場に
彼の愛車が停まっているのが見えた。

車の方に向かって歩いていると
コンビニの出口からすらっとした背の高い人影が
こちらに近づいてきた。
逆光で顔が見えず、(彼なのかな?)
と思い立ち止まってみた。
彼が手を振りながらこっちに歩いてきた。
「久しぶり〜。」
暗くて顔が全く見えなかったが
やはりスタイルのいいその人影は彼だった。
中綿の入ったジャンバーにキャップをかぶっていた。
(相変わらず何を着ても様になる男だな。)
さちこのテンションは上がっていた。
「あー。ごめんね。遅くなっちゃって。」
さちこは息を切らせながら話した。
「大丈夫?ゆっくりきて良かったのに。
はいっ、紅茶とお茶どっちがいい?」
彼はコンビニで温かい紅茶とお茶を買って
さちこに見せた。
その気遣いが更にさちこのテンションを上げた。
なかなか起きられずにダラダラしていた
今朝の自分を呪った。
「ありがとう。じゃあお茶いただくね。」
「はいっ。」
さちこはお茶を受け取ってドアを開けようとすると
彼が助手席側に回りこんで開けてくれた。
(なんというスマートさであろう。)
最初のドライブデートの彼の紳士っぷりに
感動したことを思い出した。
後部座席にコートとマフラーとバッグを置いて
助手席に乗り込んだ。
彼はタイトスカートを滑らせて助手席に座る
女の脚を見るのがきっと好きなのであろう。
だからさちこは意識してあえて
少しスカートが捲れかかるように
且つエレガントに脚を着地させた。
彼はドアの隙間からタイツ姿のさちこの膝上を
しっかりと見ているに違いなかった。
彼がドアを閉めて運転席に回った。
さちこはまだ息が途切れどぎれだった。
「そんなに急がなくて良かったのに。笑」
「うん、ごめんね。
いつもは30分前には出れるように準備してるんだけど
今日は筋トレしてて時間配分間違えた。笑」
「筋トレしてるの?」
「うん。毎日お風呂入る前にしてて、
今日もさっきお風呂入ってきたの。」
「ふーん。えらいね。じゃあ行こうか。」
彼が車を発進させた。
