5話 落ち着かない男
さちこはそのままベッドでAV鑑賞をしていた。
戻ってきた彼はさちこの横に寝転がっていたが
しばらくするとキョロキョロし始め、
挙動不審になった。
「どうしたの?もう時間?」
「ううん。時間はまだある。
なんか落ち着かないぞ。」
「そうなの?AVチャンネル変えようか?」
「大丈夫。」
何が原因なのかわからないので
さちこは彼を放っておいてAV鑑賞を続けていた。

(私といて落ち着かないなんて言う男初めてだわ。
それってどーなん?私の問題か?
彼のいっぱいいっぱいがまた発症したのか?)
さちこは彼がリラックスできるように
AVのチャンネル権利を譲ってやった。
「ねえ、2回戦はしないの?」
「しない。」
「いつも?」
「うん。」
「ふーん。
でもちょっと半勃ちになってるんじゃない?」
「え。。。無理だよ。勃たないよ。」
「勃ってるよ。ほら。」
さちこがいじり出すと彼の竿はすぐに反応し、
9割ほど復活したところで
彼のスマホのアラームが鳴った。
「あ、時間切れだ。」
「あーあ。仕方ないね。」
「もう帰る支度しなきゃ。」
「わかった。じゃあシャワー浴びる。」
さちこは起き上がってシャワーを浴びた。
部屋に戻ると彼は通勤スタイルの仕事着に
着替え終わり、先程の眼鏡をかけていた。
「これこのまま捨ててっていいかな。」
彼はAmazonの段ボール箱も
そのまま部屋においていった。
「え!服も捨てていくの?」
「うん。」
「もったいな。」
「リスクだもん。」
「まあそりゃそうだけど。。。
じゃあ写真撮っといて良かった。笑」
「そうだね。笑」
彼の執着のなさは
さちこのレベルをはるかに上回っていた。
だから年下の彼にでも
中身にも惹かれている部分があるのかもしれなかった。
退室する時に自動精算機の反応が遅いと
少し苛立ってる様子に驚いた。
(私がシャワーしてたから遅くなっちゃったのかな。
悪いことしたな。
だって、2回戦すると思ってたし。。。)
部屋を後にした。
車に乗り込む前から彼は完全に通勤モードに
切り替わっている感じであった。
彼は視力が悪いようでいつもはさちこに会うまでは
度のキツい眼鏡をかけているようだった。
そして待ち合わせ場所に着くと眼鏡を外し、
さちこといる時はずっと眼鏡を外していた。
初めてそれを知った時は
(だから私でも相手にできているのか?)
と自虐的に納得したが、
<分厚いガラスの眼鏡をかけると
ただのオタクにしか見えない> ことを
彼は自分でもよくわかっていて
女性の前では眼鏡を外しているだけなのかも、
とポジティブにも受け取っていた。
そんな彼が完全に眼鏡をして両手でハンドルを握り
通勤モード全開になっているのが
なんだかよそよそしく寂しく感じた。
「楽しかったね。」
「うん。」
「また夜景見たいね。」
「うん。イルミネーションどこが良いかなあ。」
「この季節どこでも綺麗そうだね。
紅葉のライトアップとかもありそうだし。」
「そだね。」
「また遊ぼーね。」
「都合が合えばね。」
(ん?なんだ?その言い方は。)
「うん、そだね。。。」
急に彼にマウントされたような感じがした。
(彼は確かに「すぐ会いたい」と言ってくる女は
苦手とは最初から言っていた。
だが私が今発した言葉は
そんな重い波動のものとは違うし、
普通に帰り際に交わす言葉のつもりだったが
彼はそう受け取ったのであろうか。。。
それともさっき私の実年齢を知って
ドン引きしたからか?
まあそれで引くなら仕方ないか。
ってか、アプリでも年齢は正直に載せてたしね。
見てなかったお前が悪い。
まさかさっき竿褒めすぎて重く感じたのかな。笑
まあ痛くてそんな気持ちよくなかったし
別にもうしなくても良いかな。)
終始気になっていた彼の臭いと
帰り際の彼の一言が引っ掛かり
別れのキスは自分からしたものの、
帰宅後のお礼のラインは今回しなかった。
やはり彼も二度までの男なのだろうか。。。