6話 別れの予感
チェックアウトを済ませ駐車場に向かった。
「さっちゃんは意外とセンシティブなんだね。
さっきから静かになっちゃったね。」
「そう?普段の私はこんなもんよ。」
「そう?」
彼が最初に会った時
<神経質な女性は苦手>と言っていたことは
覚えていたが、どうにもこうにも
明るく振る舞える気分にはなれなかった。
彼がそんなさちこをめんどくさいと思うなら
それまでのことだと思ったが、
車の中で次の会う日は決めて帰った。
彼に駅まで送ってもらった後、
急にお腹が空いてきたので
気晴らしにドーナツ店に入った。
ドーナツを食べてからショッピングモールを
少しブラブラしてから
電車に乗っていると彼からラインがきた。
「気をつけて帰ってねー。」
「ありがとう。まだ電車。今日も色々ありがとう。」
「僕も色々ありがとう。」
翌朝も彼は元気に
ゴルフシューズの写真を送ってきた。
「今日のジョーダン。」
「今日の大竹さんの竿は?脚ガクガクしてない?」
「竿!笑 全然ガクガクしてないよ。」
「さすがだね!」
その翌朝もゴルフシューズを履いた
下半身の写真を送ってきたが、
3日目からパタリとラインがこなくなった。
翌日の夜、
さちこから初めてラインすると
「ねむい」というスタンプがきたので、
「おやすみなさい」のスタンプを返すだけとなった。
翌朝も彼からラインが来ないので、
昼過ぎにラインを送ってみたものの
返信に熱量が足りない気がした。
彼がピロートークで
<前の彼女と別れるのに2年かかった。
笹舟を川に流すかのように
そーっと押し出すのに2年かかった。>
という話を思い出した。
彼は私のこともそうしたいのかもしれない。
そう思うとこちらからラインするのが
馬鹿馬鹿しくなってきた。

次の日からさちこは一切彼にラインしなくなった。
4日後のデートの約束を
どう向こうからキャンセルしてくるのか、
ある意味楽しみなさちこであった。
デートの約束の前日、久々にラインがきた。
「会社の役員がコロナにかかったから
出られない。リスケお願いします。」
謝罪の言葉が一切ないことにも人間性を疑ったが、
まあこちらもそこまで
楽しみにしていたわけでもなかったので
「ありゃりゃ大変だね。大竹君も気をつけてね〜」
とだけ返信した。
そのまま既読スルーされ2週間経った。
さちこは急にムラムラしたので
<他の男に明日会わないか?>と誘ったが断られ、
大竹君にも一応声をかけてみた。
「明日ゴルフ。」
さちこはその返信を見て、<もうええわ。>と思った。
確かに前日急に誘っても断られる確率のが高いが
その返事の仕方が雑に思えて
そんな男を誘った自分が情けなくなった。
彼をブロックした。
しばらくして
既婚者専門サイトのマッチングリストからも
彼をブロックした。

すると翌日ラインがきた。
ブロックしたつもりができていなかった。
「近々またお会いしませんか?」
「いいよ。来週のご都合は?」
「月曜か水曜なら空いてる。」
「じゃあ月曜にしよ。」
前日の日曜日ラインがきた。
「仕事入った。リスケお願い。」
<ふざけんな。>と思うのは言うまでもないが、
なぜこんな男と関わらなければならないのか、
自分の波動がまた下がってきたのか
自分を呪った。
「オッケー。水曜は?」
「水曜ゴルフ。待ってて。」
(はあ?なんで私がお前を待たなきゃいけねえんだ?
3回も断られて待つわけねえだろ。ふざけんな。)
もうさちこから誘うことはないと思った。

すると水曜日にラインがきた。
「明日って空いてないよね?」
「空いてるよ。」
「じゃあ明日会おう。」
「いいよ。」
またキャンセルになったら
今度こそ完全にブロックして削除しようと心に誓った。