1話 2番目にマッチングした男
47歳
東京近郊在住
世襲制経営者
既婚者専門サイトに登録して
2人目にマッチングしたのが大竹君であった。
マッチングしてから
大竹君がメッセージをくれたのは少し遅く、
その後のレスポンスもイマイチテンポが悪かったので
他の女と同時に並行して
やり取りしている感じはしていた。
ただ同時並行はお互い様なので、
とりあえず写真を交換した。
写真交換してから彼がノリノリになったのは
手にとるようにわかった。
「キョトンとした顔になってますが、
写真より実物のがいいです。」
「もし良ければラインを交換しませんか?
悦子さんは信用できる方と思いましたので。
もし会ってからの方がよければそれでも構いません。
ご無理なさらずに。」
自信満々にそう言いきるところにも興味があったし、
気遣いも上品な人そうだったのでライン交換した。
彼のアイコン名はがっつりフルネームで驚いた。
名前入りのスタンプが可愛くて
なんともラインマジックに陥りやすい。
待ち合わせ当日、
駅に着くと似たような年格好の男が2人いた。
ラインに書いてあった服装の方の男に近づいていくと
マスクもしているし、目尻のシワが目立ち、
写真とは全く別人のような感じだった。
(白黒写真とはいえ写真の方が若いよねえ。)
さちこはマスクを外していたので、
男の方は気づいて会釈した。
「初めまして。こんにちは。さちこです。」
「こんにちは。」
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。じゃあ行きましょうか。」
「はい。」
「さっきちょっと見てきたんですけど、
こっちの方にお店あるみたいなんで。」
「あ、そうですか。
わざわざ下見していただいたんですね。
ありがとうございます。」
「いえいえ、すみませんね。
あの言ってたお店、
この時間開いてないって言うんで。」
「大丈夫ですよ。仕方ないですよ。
雨降りませんでしたね。」
「ほんと。台風来たらゴルフ中止になって
ランチご一緒にできるから、
台風来いって思ってたんですけど。」
「いや、来ないと思いましたよ。
私、晴れ女だから。笑」
「あ、そうなんですか?」
「ええ。笑」
「だからかなあ、いや、今日ここ来る前のゴルフ、
自己記録更新したんです!」
「へえ、よかったですねえ!」
「そう、だから今日これがあるからだと思って!」
「きっとそうですよ。笑」
「いやあ、よかったです。ありがとうございます。」
「このサイト長く登録されてるんですか?」
「いや、そんなでもないです。悦子さんは?」
「私は今月始めたばっかりで。
まだよくわからないですけど、
前は違うアプリしてたんで、なんか詐欺な人多くて。」
「詐欺ってどんな?」
「年齢とか身長誤魔化してる人。」
「へえ。年齢と写真を10年前の出してて、
会ったらどう見てもおじいちゃんとか、
有り得んでしょ?
私の時間を返してくれって思いますわ。」
「そりゃそうですよね。」
「女性でもそういう人いないですか?」
「そういうのはないけど、、、あ!一回あった。
太ってる人。」
「へえ。」
「俺でかい人苦手なの。だから会った時
もうすごい太っててそれは流石に嫌だった。」
「大竹さんスタイルいいですもんね。
私大丈夫ですか?」
「全然大丈夫。悦子さんは全然普通でしょ?
そーじゃないのよ。
もうその人ホントにマツコみたいな感じだったから。」
「でも体重見たらわかるんじゃ?
プロフに書いてなかったんですか?」
「うん。体重なんてみんな載せないでしょ?」
「私書いてますよ。」
「載ってなかったよ。」
「え?嘘?ちゃんと書いてますよ。
待って。プロフ見てみる。
ほら、ちゃんと書いてるでしょ?」
「いや、じゃあ俺が見てるページ見せてあげる。
ほら載ってないでしょ?」
「ホントだ!なんでだろ?」
「やっぱ女性だからじゃない?」
「男性のは載ってるのにね。
じゃあプロフに書いても意味ないんですね。
だから聞いてきたんだ。」
「そう。」
「ふーん。ひとつ勉強になった。
ありがとうございます。」
「お店、ここはカフェみたいなところで、
もう一個先のがアルコール飲めそうなところ。
行ってみる?」
「私はどっちでもいいですけど
じゃあ一応見てみましょうか。」
「俺、こっちのがいいかな。」
「じゃあこっちにしましょうか。」
さちこが苦手なカレーの匂いが
充満している店だったが、 仕方なく店に入った。
店員がメニューと水を持ってくると、
カレーの説明を延々とし始めた。
ランチを済ませた二人で毛頭興味のない話だった。
(これをどう切り返すのかな?)と思った瞬間、
彼は口を挟んだ。
「悦子さん、食事はされます?」
「いや、私は結構です。」
「ですよね。僕も食べてきたんで、結構です。」
「承知いたしました。
では、お決まりになりましたらお呼びください。」
「はい。わかりました。」
店員が去って行った。
そのスマートな切り返し方に
彼の経営者的な社会性の一面を垣間見た。
さちこはこの後、1人目にマッチングした男との
2回目のディナーデートがあったので
顔が赤くなるからアルコールは呑まないと決めていた。
「せっかくだから一杯くらい呑みましょうよ。」
「いや、今日はちょっとこの後予定があるんで。。。
じゃあとりあえず
一杯目はレモネードにしていいですか?」
「いいよ。じゃあ俺はモヒートにする。」
彼はつまみとウオッカ入りのモヒートを注文した。
さちこは太ももに
丁寧にアイロンをかけきたスカーフを敷いて
上品にレモネードを飲んだ。
彼が質問したことに丁寧に答えていた。
話がさちこの身の上話に及ぶと彼はさちこの話を遮って
「ねえ、セックスレスってそんなに地獄なの?
俺、その話に興味ある。」
と言い出した。
そこから会話は突然しもい話に舵をきった。
